GISを専門としない研究者のためのQGIS/GRASS等入門

QGISやGRASS等の「このやり方をこうやって書いていてくれればあんなに苦労しなくても済んだのに..」といった経験をまとめている備忘録です

はじめに

論文の作成などで、収集したデータからGISを使って見栄えのする地図を作りたい、距離や面積などを計測したい、一歩進んで自然環境の分布と組み合わせた分析をしてみたいといったことがあると思います。私は海外でのフィールド研究を専門にする研究者なので、割と身の回りの研究者からそういう希望を良く聞きます。その際やはり良く受けるのは、「GISを使ってみたいけどどこから手を付けていいか分からない」という相談です。 

かつては非常に高価なソフトウェアであったGISも、低価格化が進み個人でも何とか購入できるぐらいのものになってきました。それでも一般的な文書作成や表計算ソフトウェアと比べると、依然として高価です。比較的手に届く価格帯で入手できる(ベーシック)パッケージで扱えるのは、GISデータの基礎的な処理や初歩的な分析部分がほとんどで、少しGISに慣れてきてちょっと特殊な分析が行なってみたくなってくると、高価な追加パッケージの購入が必要になることがほとんどです。このようにGISは、他の研究分野を専門としつつ時々必要に応じて使いたいと思っているユーザーにとっては、導入コストの面で色々と敷居が高く、それで結局GISを自分の研究に導入することを諦めてしまっているように思います。 

GISに多少馴染みのある人は、QGIS, GRASS, SAGA, などの名前を知っているかもしれません。これらはオープンソースと呼ばれるソフトウェアで、ソフトウェアの開発者と世界中のユーザーで形成されているコミュニティによって支えられています。バグの修正や新機能の実装など、ソフトウェアの進化も日進月歩で進んでいて、商用ソフトウェアに引けを取らない高度な分析が可能になっています。しかしそれまでGISに全く触れたことのない研究者が、必要に迫られて自分のデータをGISで扱いたいと思い立ったとします。その時これらのオープンソースGIS が使われて、必要な地図なり分析結果なりが得られているでしょうか。実際に見聞きしてきた範囲では、そういった事例はまれなように思います。 

原因のひとつに、これらのオープンソースに関しては初学者がとっつきやすい情報源(マニュアルや解説本)がほとんどないことがあるように思います。(主にネット上で)散見される情報源には多くの素晴らしいものがありますが、一方で記述が難解である程度のGISの知識を前提としていたり、扱っている情報が断片的であることが多いように感じます。そうした情報の海を執念深く探索し、必要な情報を繋ぎ合わせ、ようやく目的とする分析を可能とする手順を見出して、最後にまた試行錯誤しながら(商用ソフトウェアでないため、細かい部分でユーザーの自主努力を求めるような部分があります)自分が持つデータに適用していくといった作業が要求される状況は、オープンソースGISが持つ素晴らしい可能性が十分に発揮されていないようで残念な気がします。

このブログは、QGISやGRASSを自分で扱う or 他人に使い方を教える際に感じている、「こんな風にまとめてくれている解説本やサイトがあったら便利だったのに..」「このやり方をこうやって書いていてくれればあんなに苦労しなくても済んだのに..」といった経験をまとめていく備忘録です。特にGISを専門としない研究者にとってGISを学ぶ目的は、GISを使いこなすことそのものにはなく、データから導き出される地理的なリアリティが自身の研究の視野を拡大してくれることを実感として理解できるようになることにあると思います。そのためには、GISを使いこなす技術の習得そのものに関しては、不必要な苦行は極力廃されてもいいのではないかというのが私の考えです。このサイトの情報によって、一人でも多くの研究者が文書作成や表計算のソフトを扱う気軽さでGISを扱えるようになり、様々な研究分野において少しでもGISが多く活用されるようになれば幸いです。